「先生、駅で『まもなく電車が参ります』って言いますよね。電車は、誰を敬っているんですか?」——授業でこう聞かれて、固まったことはありませんか。「謙譲語=自分がへりくだる敬語」と教わったはずなのに、電車はへりくだる主体ですらない。この記事では、この質問に10秒で答えられるようになる道具「矢印テスト」を、駆け出しのふたば先生とベテランのコマ先生の会話でお渡しします。


「行く・来る」に対して「参る」——敬語5分類のどれ?
▲ 登録日本語教員試験・基礎試験形式の一問一答(音声オンで解説つき)
結論:謙譲語は「矢印」で見分ける
先に答えの道具から。旧3分類でひとくくりに「謙譲語」と呼ばれていたものは、実は性質の違う双子です。見分け方はひとつだけ。
・矢印の先に立てるべき人がいる → 謙譲語Ⅰ(例:伺う・申し上げる)
・矢印がない/先に誰もいない → 謙譲語Ⅱ=丁重語(例:参る・申す・いたす・おる)
同じ「行く」でも、「先生のお宅へ伺います」は矢印の先に先生がいるからⅠ。「毎朝6時に会社へ参ります」は矢印の先に敬う人がいないからⅡ。Ⅱの敬意の宛先は、話を聞いているあなたです。
これで冒頭の質問に答えられます。「電車が参ります」が敬っているのは、電車の行き先ではなくアナウンスを聞いている乗客。矢印の先に誰もいなくても成立する——これが謙譲語Ⅱの証拠で、動画クイズの答えも「謙譲語Ⅱ(丁重語)」でした。


なぜ迷う?——あなたの敬語は「2007年」で止まっている
誤解のないように言うと、学校で習った3分類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)は間違いではありません。日常で敬語を「使う」だけなら3分類で十分回ります。分類が少ないほうが覚えやすいのも事実です。
ところが「教える側」「試験を受ける側」に回った瞬間、3分類は破綻します。旧「謙譲語」の箱に性質の違う2種類が同居していたからです。この不具合を直すために、文化審議会が2007年(平成19年)の答申「敬語の指針」で示したのが現在の5分類。いまの試験と現場の共通言語はこちらです。
| 5分類 | 働き | 代表例 |
|---|---|---|
| ①尊敬語 | 相手(話題の人物)の行為・状態を高める | いらっしゃる/おっしゃる/召し上がる |
| ②謙譲語Ⅰ | 行為が向かう先の相手を立てる(矢印あり) | 伺う/申し上げる/お目にかかる |
| ③謙譲語Ⅱ(丁重語) | 行為を聞き手に改まって述べる(矢印なし) | 参る/申す/いたす/おる |
| ④丁寧語 | 話や文章全体を丁寧にする | です/ます/ございます |
| ⑤美化語 | ものごとを上品に言う | お酒/お料理/ご飯 |


教室でそのまま使える「返し」と、試験用ペア暗記
理屈が入ったら実装です。まず、学習者に聞かれたときの説明台本から。
「『伺います』は、会いに行く人がえらい人のときに使います。『参ります』は、話している相手に、ていねいに言いたいときに使います。だから駅のアナウンスは『参ります』。電車はだれにも会いに行きませんが、お客さまにはていねいに話したいからです。」
試験対策はこのⅠ/Ⅱペアに集約されます。矢印テストを頭に置いて、ペアで固めてください。
| もとの動詞 | 謙譲語Ⅰ(矢印あり) | 謙譲語Ⅱ(矢印なし) |
|---|---|---|
| 行く・来る | 伺う | 参る |
| 言う | 申し上げる | 申す |
| する | —(「お〜する」形が主) | いたす |
| いる | — | おる |
「部長に申し上げた」は矢印の先に部長がいるからⅠ。「母がそう申しておりました」は聞き手に改まっているだけだからⅡ。身内の発言にⅡを使う理由も、矢印テストで説明がつきます。
よくある質問
- Q1. 「お伺いします」は二重敬語では?
- 原理上は「伺う(謙譲語Ⅰ)」+「お〜する(謙譲語Ⅰ)」の二重敬語です。ただし「敬語の指針」自身が、習慣として定着した表現として許容しています。試験では「原理上は二重敬語だが慣用で許容」とセットで覚えましょう。
- Q2. 「おります」「〜ております」はなぜビジネスで多用される?
- 「おる」が謙譲語Ⅱだからです。矢印の先に特定の相手がいなくても、聞き手・読み手に改まった印象を与えられるため、メールや電話の定型(「承っております」)に最適なのです。
- Q3. 3分類の知識のままでも試験は解けますか?
- 謙譲語Ⅰ/Ⅱの区別を問う問題が正面から出るため、3分類のままでは選択肢が絞れません。逆に矢印テストさえあれば、未知の敬語が出ても現場で判定できます。


まとめ|持ち帰るのは「矢印」の一語だけ
- 3分類は間違いではないが、2007年「敬語の指針」で5分類に更新済み。教える側・受験する側の共通言語は5分類。
- 旧「謙譲語」は双子。矢印の先に立てる人がいればⅠ(伺う・申し上げる)、いなければⅡ=丁重語(参る・申す・いたす・おる)。
- 「電車が参ります」の敬意の宛先は聞き手のあなた。だから誰も敬っていなくても成立する。
- 迷ったら「誰のところへ?」——矢印テストだけで、丸暗記は要りません。
今日の「参る」のような一問一答、毎日1問だけ続けてみませんか。